佐賀銀行デマメール事件研究

2008年1月6日 メールはこのアドレスへお願いします

NHK朝の情報番組「あさイチ」の番組取材を受けてきました。2012年5月29日(火)17時から市内の某場所で番組女性ディレクターと一時間ほど話をしました。

2012年7月4日(水)番組メインテーマ「もう うわさに惑わされない!」の一部として放送されました。番組開始時間(8:15AM)から29分~32分経ったところで(2012年7月4日8:44AM~8:47AM)、ある地方都市で起きた取り付け騒ぎとして紹介されました。


■ はじめに

先日佐賀銀行デマメール事件について振り返る機会があった。当時の情報をネットで再び調べてみたがマスコミの記事はもちろん,佐賀銀行のサイトに掲載してあった公式発表なども跡形なく消え去っていった。ネット社会だからこそ発生したこの事件を風化させてはならない。事件から四年経った今,改めて事件を振り返ると共に資料をまとめておこうと思う。


■ 佐賀銀行デマメール事件とは

2003年(平成15年)12月25日午前2時ごろ(午前1時半ごろという報道もあり)佐賀県在住の当時23歳(22歳という報道もあり)の女性(中山さん?)が友人から「佐賀銀行が26日につぶれるらしい」という話を電話で聞き,26人の知人らに

緊急ニュースです!
某友人からの情報によると26日に佐賀銀行がつぶれる そうです!!
預けている人は明日中に全額おろすことをお薦めします(;・_・+
一千万円以下の預金は一応保護されますが、今度いつ佐銀が復帰するかは不明なので、不安です(・_・|
信じるか信じないかは自由ですが、中山は不安なので、明日全額おろすつもりです!
松尾建設は、もう佐銀から撤退したそうですよ! 
以上、緊急ニュースでした!! 
素敵なクリスマスを☆彡

という内容の28通のメールを3回に分けて送信したところ,受信した人達がさらに別の知り合いに電話・メールをするなどしたことにより瞬く間に情報が広がり,不安に駆られた預金者が12月25日昼頃から預金引き出しのために佐賀銀行の窓口・ATMに並び長蛇の列ができ一日で通常の二倍の180億円(総額で450~500億円)の預金が引き出されたり解約されたという事件である。

当時このニュースを掲載していた佐賀新聞のサイトからも既に記事はなくなっているが(有料記事検索を利用するとまだ見られるかもしれないが…)このサイトから当時の記事を見ることができる。当時、デマが広まりはじめた日時を特定できずに報道現場も混乱したため?記事の日付が「2003年12月24日」となっているが明らかな間違いであるはずだ。( ← Internet Explorer の場合メニューの「表示(V)」「エンコード(D)」で「日本語(シフト JIS)」に切り替える必要があるかも知れません)。

さらにデマはネットの掲示板でも広まった。当時の掲示板がこのサイトで見ることができる( ← Internet Explorer の場合メニューの「表示(V)」「エンコード(D)」で「日本語(シフト JIS)」に切り替える必要があるかも知れません


(関連情報)豊川信用金庫事件


■ なぜデマが広まったのか

自己資本比率の基準をクリアしていた佐賀銀行に関するデマメールが広まったのには理由があると思われる。

2003年(平成15年)3月11日,松尾建設リストラ報道
 ネットの記事や掲示板にも記述されているが2003年(平成15年)3月末に県内(九州)最大手の松尾建設が53歳以上の全社員をリストラ(日経BP のサイト)すると報道された。このリストラは各新聞でも一斉に報道されたため多くの佐賀県民はメインバンクの佐賀銀行に対しても一抹の不安を感じた事だろう。

2003年(平成15年)8月26日,佐賀商工共済破綻
 続いて県内で中小事業主を対象に共済事業と貸付け事業を行っていた佐賀商工共済が運用の失敗を隠すため粉飾決済を行い2003年(平成15年)8月破綻した(フジテレビのサイト)。歴代の理事長には当時国会議員の陣内孝雄・元法相(1991~1996年,平成3~8年)や当時県議会議員の水田唯市(1996~2003年,平成8~15年)が在職し,監督官庁が佐賀県であることから信頼を寄せお金を託した人も多かった。しかし佐賀県は1996年(平成8年)に7億の損失と粉飾経理を把握しながら指導監督責任を怠った(佐賀県庁のサイト)。その後組合員が歴代理事長や佐賀県を相手取って起こした訴訟では双方の法的な責任が認められるなど裁判が続いている。
 ここで注意しなければならないのは佐賀商工共済は預金保険制度の対象ではないため積立金は保護されないことである。したがって佐賀県民は数百~数千万円の積立金がほとんど戻ってこない可能性がある事態を目の当たりにしたのである。

2003年(平成15年)11月25日,佐賀銀行の発表
 当行および連結子会社等の平成15 年度通期の業績見通しにつきましては、経常損失は193 億円、当期純損失は196 億円を見込んでおります(佐賀銀行のサイト)。(4ページの「(2) 通期の見通し」,PDF の 5ページ)

2003年(平成15年)11月29日,足利銀行破綻
 栃木県の足利銀行破綻した。新聞・テレビで銀行預金は全額保護されることが報道された。しかし預金の引き出し手続きが煩雑であったり,引き出しに時間がかかるかもという不安を与えたのかも知れない。※ 参考 Q6 保護の対象となる預金は、金融機関の破綻後、すぐに引出しができますか?(金融広告中央委員会のサイト)

2003年(平成15年)12月3日,足利銀行の次は「九州北部のアノ有名地銀」のうわさ
↑ Internet Explorer の場合メニューの「表示(V)」「エンコード(D)」で「日本語(シフト JIS)」に切り替える必要があるかも知れません

2003年(平成15年)12月10日,佐賀市水ヶ江の豊栄建設が民事再生法の申請
 メインバンクである佐賀銀行は79億円が回収不能になる恐れがあると翌日の新聞で報道されたようです。

 こうしたことが佐賀銀行デマメール事件を大きくしたと思われる。


■ X氏の対応

県立機関に勤務するX氏は2003年12月25日もいつものように勤務していた。クリスマスだったがいつも程の忙しさはなく比較的ゆとりがあった。午後1~2時ごろ所属長が執務室に入ってきて「佐賀銀行がつぶれるそうだ!。俺のケータイにメールが入ってきた。やっぱりそうだったか。」と切り出した。そして所属長なりの考えを述べた後「家族の者にも連絡しなければ」と言いながら執務室を出て行った。

それを聞いたX氏は考えた。「先月も他の銀行が破綻しているが今度は自分が同じ目に遭うのか。しかし佐賀銀行が潰れるという話は本当だろうか?」。まずは情報の信憑性を確認するために佐賀銀行のサイトにアクセスしてみる。しかしアクセスが集中しているのか一向に表示されない。時間をおいて何度試してもダメだった。確かに何か起こっているのは間違いないようだ。それならばということで地元の新聞社・放送局のサイトにアクセスしてみる。しかしどこにもそのような情報は掲載されていなかった。まだ報道されていないだけだろうか?。時間をおいて再度佐賀銀行のサイトにアクセスすると時間がかかるものの何とかサイトが表示された。しかし銀行が破綻するということはどこにも書かれていない。そこでX氏は考えた。「まだペイオフは解禁されていないので足利銀行のときと同様に預金は全額保護されるはずだ。幸いいくらかの手持ち金もあるししばらくは銀行に行かなくても生活は出来る。慌てて銀行に預金を引き出しに行く必要はなかろう。でももし本当なら少々面倒なことに巻き込まれたな」と思いながらもしばらくは静観し何も行動を起こさないことに決めた。

夕方勤務が終了して自宅に帰る途中佐賀銀行では人々が集まっていた。帰宅後テレビをつけておいたが夕方のニュースでは何も報道されなかったし,夜のニュースでも何の報道もなかった(たまたま報道を見損ねただけかも知れないが,夜九時前の地元NHKニュースではそのようは騒ぎが起きていることすら報道されなかった)。結局X氏が佐賀銀行に関する報道を見たのは翌日の朝であった。


■ 事件の経過とその後

2003年(平成15年)12月25日午前中,佐賀銀行
 問い合わせやATMに並ぶ客が増え始め,異常事態に気づく

2003年(平成15年)12月25日14:00過ぎ,佐賀銀行
 メールの現物を入手する

2003年(平成15年)12月25日16:30~19:30ごろまで?
 県内全域で携帯電話がつながりにくい状態になった

2003年(平成15年)12月25日17:45,佐賀銀行
 悪質な虚偽の情報を電子メールで流し、同行の信用を著しく失墜させたとして相手不詳のまま、信用毀損罪で佐賀警察署に刑事告訴し受理される。

2003年(平成15年)12月25日17:50,佐賀銀行頭取の記者会見
 しかし記者会見で頭取は「言葉に表せないぐらい腹立たしい」と怒りをあらわにしただけで、簡単に15分程度で打ち切ろうとしたらしい。記者が「デマを否定してください」とかみつくと、ようやく「そんな質問があるとは思わなかった」と苦笑したという(『西部読売新聞』2004年1月11日付)

2003年(平成15年)12月25日夜,財務省福岡財務支局の発表
 村上和也支局長名で緊急のコメントを発表し、佐賀銀行について「悪質な電子メールにあったような事実は全くなく、銀行の経営内容、健全性、資金繰りは問題ない。預金者には冷静な対応をお願いしたい」と呼びかけた

2003年(平成15年)12月26日10:30~,竹中内閣府特命担当大臣(金融、経済財政政策)記者会見
 問)昨日の佐賀銀行の件ですが、佐賀銀行の自己資本比率が8.6%で健全な銀行だと思われていたかと思うんですけれども…

2004年(平成16年)2月17日,発信元の女性が書類送検される
 女性は佐賀警察署の調べに「本当に信じ、友人に教えようと思った」などと涙ながらに語り「こんなことになりびっくりした。悪意はなかった」と反省しているという。

2004年(平成16年)9月9日,発信元の女性不起訴処分
 佐賀地検は9日「(信用を傷つけようとの)犯意を認めるに足る証拠がない」として不起訴処分(嫌疑不十分)とした。


■ 佐賀銀行のコメント

現在の佐賀銀行のサイトには当時の資料は残っていない。当時のサイトでの公式コメントがこのサイトに残っている。それ以外にもいくつかのコメント掲載されていたが現在はアクセス出来なくなっている。そこで当時のコメントを再現しておく(担当者名や電話番号は伏せておく)。

平成16年1月30日
佐 賀 銀 行

12月25日事件についてのお礼とお詫び、並びに反省について

1.  昨年12 月25 日の事件につきましては、皆様に大変な御心配や御迷惑をおかけする一方、励ましのお言葉等多大な御支援をいただきました。心からお礼とお詫びを申し上げますと共に、役職員一同、さらに御信頼・御満足いただける地元の銀行となるよう努力いたしますので、よろしくお願い申し上げます。
 いずれにしろ、どのようなデマや中傷が流れようとも、そのことによってお客様が当行ATMに行列を作られることがない銀行にしなければならないと考えているところです。
2.  今回の事件につきましては、色々反省しなければなりませんが、御批判の一つとして、もっと敏速な対応ができなかったかということがあります。25 日午後のより早い時間、25 日の午前中、前日の24 日、あるいはそれ以前に何等かの対応ができなかったかということで、この点、このような事態の発生を直前迄予想しなかったことは、大きな反省点であると考えます。
3.  24 日以前の当時の状況の一つとしては、当行の優良なお取引先である松尾建設㈱に対するデマが流されていたということがあり、中には「佐賀銀行は松尾建設に対し2,000 億円の貸金があり、松尾建設が倒れれば佐賀銀行も倒れる」といったものまで有ったようです。
 これに対し、メインの取引銀行である当行が同社に対するデマを否定するコメントを出すべきではなかったかという御批判がございます。
4.  銀行は一般に守秘義務上、お取引先の状況についてコメントすることはいたしておりません。しかし、これ迄の松尾建設㈱に対するデマに対して、当行が敏速な対応をしなかったことが今回の当行に対するデマに影響しなかったとも言い切れない点があり、また松尾建設㈱に対するデマがなお一部で伝えられているようですので、特に同社の御了承をいただいて、次のとおりコメントをさせていただきます。

○  現在、松尾建設㈱は健全な経営を行なわれており、同社が当行のいわゆる不良債権先であるといったことはありません。
○  平成15年12月末現在の当行の同社に対する貸出金、支払保証および私募債の合計額は91 億円です。
○  当行としては、大事なお取引先として、今後ともお取引を願っていく考えです。

平成16年9月9日
佐 賀 銀 行

信用毀損事件に係る佐賀地方検察庁の発表について

 本日佐賀地方検察庁より、当行が昨年12 月25 日にデマメールに関して刑事告訴した信用毀損事件について被疑者を不起訴とする発表がなされました。

 今般検察庁のご判断により被疑者について不起訴処分にするとの決定がなされましたが、今回の「デマメール事件」に関しては、当初当行が刑事告訴を行いました段階で想定しておりました「悪意をもって当行に損害を与えようとする者」の存在の有無については、なお不明な点が残っている感は否めません。
 ご当局におかれましても、引き続き今回の事件につきまして関心をお持ちいただけるとのことであり、当行といたしましては、そのような者の存在の解明に繋がる新しい情報があれば、ご当局に捜査をお願いすることにしております。

 事件発生以来、皆さまにご心配やご迷惑をおかけいたしましたことにお詫び申し上げますとともに、多くの励ましやご協力をいただきましたことにお礼申し上げます。
 今後とも皆さまからより一層のご信頼をいただき、よりご満足いただける銀行となりますよう、役職員一同さらに努力いたしてまいりますのでよろしくお願い申し上げます。

 昨年12月25日のデマメールに関しましては、今後とも当行本店・お客さま相談室(代表電話0952-XX-XXXX)におきまして、皆さまからの情報をお受けいたしますので引き続きご協力をお願いいたします。
以上

  <本件に関するお問合せ先>
総合企画部・経営企画グループ
(担当:○○、△△)
電話(0952)XX-XXXX

今回の事件のことを「バカだな」と思って読んでいる人も多いと思う。しかし当時渦中にいた佐賀県民の多くは佐賀銀行は潰れるという話を聞いたとき「やっぱり!」と思ったことだろう。またほとんどの佐賀県民は足利銀行破綻の報道で「預金は全額保護される」という知識はあったにもかかわらず不安に駆られ,さらに実際に銀行の窓口やスーパーなどのATMに多くの人が並んでいる光景を目の当たりにして自分もまたそこに並ばずにはいられなかったのである。気が動転すると正常な判断ができなくなることを思い知らされた人も多かったと思う。

一歩間違えば誰もが(社会的地位が高く知識・教養があると思われている人でさえ)間違った情報を発信してしまい逮捕・書類送検される可能性があったわけである。事件に至る伏線があったにせよ「情報の発信・信憑性」について考えさせられる事件であった。

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