国語教諭のための入門

2000年5月28日 メールはこのアドレスへお願いします

TeX組版でどこまで再現できるか実証するために、論評・小説を含む県下一斉模擬試験全文を引用させていただいています。


(1) pLaTeX2e 入門・縦横文書術

(1) pLaTeX2e 入門・縦横文書術

 次の書籍は国語教諭が TeX を使って,試験問題を作るための良い参考書である。ただしこの書籍は TeX の基礎的な使用方法を理解していることを前提としているので,この本だけ買っても無意味である。別の参考書を購入する必要がある。  この中で紹介されているスタイルファイルは http://xymtex.my.coocan.jp/fujitas2/texlatex/index.html#tategumi より入手できる。

 早速,佐賀県下一斉模擬試験を作成してみた。十分に実用に耐えうるが,佐賀県ではこれを使いこなせる国語教諭はいないのではなかろうか……。腕に憶えのある国語教諭の挑戦をお待ちしております。m(__)m


 出力結果(Adobe Reader) 1ページ目の「1.」が dvipsk.exe で正しくPDFに変換できなかったので \rensuji{1}\raisebox{1.5ex}{.}\hskip1.5ex として回避しました

kokugo.pdf (69K bytes)


 以下に出力結果とソースを載せておきます。(この画像は少し,古いバージョンなので,アーカイブ内のものとは若干違います。)

 出力結果(PNG画像)

 「尹」と「竟」は文字を見つけきれなかったので,出力出来ないと思いこんでいて□になっています。。

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 ソース

% kokugo.tex
%
%  作成者: gbb60166@gmail.com
%
%  平成十年度第二回(佐賀)県下一斉模擬試験(二年国語)より引用
%
\documentclass[b5j]{tarticle}
\usepackage{tkokugo,furikana,tsayusen,anaume,shiika,sfkanbun,plext}

% 上記スタイルファイルは次の URL から入手出来ます。(plext を除く)
% http://xymtex.my.coocan.jp/fujitas2/texlatex/index.html#tategumi
%=========================================================================
% gbb60166@gmail.com が作成したフォントの読み込み
%
\font\maruxii=maru12
%=========================================================================
% \textwidth=222mm
% \textheight=156mm
%
% 幾つかのコマンドの定義と再定義

\def\bousensepstretch{1.2}
\renewcommand{\labelenumi}{\アイウ{enumi}}
\def\Aiubou#1#2{\raisebox{2pt}{%
\Aiutoi[1]\label{#1}}\sayubosen{#2}}
\def\sujibou#1#2{%
\sujitoi\label{#1}\sayubosen{#2}}
\def\alphbou#1#2{\raisebox{2pt}{%
\eijitoi[1]\label{#1}}\sayubosen{#2}}
\def\最も記号{最も適当なものを次の中から選び、記号で答えよ。}

\begin{document} %%%%%%%%%%%%%%%% 本文の始まり %%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%

\noindent{\rensuji{\maruxii{2}}} \hskip5zw 
{\Large 平成十年度 \hskip1zw 第二回県下一斉模擬試験問題(二年国語)}

\vskip4zh

\mbox{}\hskip30zw   時間一〇〇分 一〇〇点満点

\vskip9zh

《受験上の注意》

\medskip

\hskip2zw\rensuji{1}.解答用紙に学校名・組・号・氏名を記入しなさい。

\medskip

\hskip2zw\rensuji{2}.解答は必ず解答用紙の指定欄に記入しなさい。

\medskip

\hskip2zw\rensuji{3}.指定された方法以外で解答すると、
誤りになるので注意しさい。

\newpage

%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%% 一 %%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%

\noindent
\hskip-1.8zw{\LARGE\bf 一} 次の文章を読んで、後の問いに答えよ。

いまの日本では、都会も田舎も変わりなく学校が荒れるという。じつはそれは、
\sujibou{日本に}{日本に田舎はもはやない}からである。日本全国、どこに
いっても都会である。真の田舎は\Aiubou{カソ}{カソ}となり、年寄りだけが
住んでいる。そこには子どもはいない。

子どもの問題でわれわれが直面しているのは、都市問題であって、子ども
自体の問題ではない。じつは大人はそれをよくしっているばずだが、
考えたくないのであろう、大人たちは都市化を「近代化」という美名の
もとに\Aiubou{スイシン}{スイシン}してきた。いまさらそれはどうしようも
ないと「思っている」。犠牲になるのが子どもだが、子どもは
\sujibou{それ}{それ}に抗議できない。だから妙な反乱が生じる。

都市と子どもは折り合わない。そんなことは誰でも知っている。
新宿の高層ビル街のようなところが、子どもを育てるのに理想的な
ところだとは、多くの母親は思わないはずである。私は鎌倉に生まれ
育ったが、あるとき私が通っていた小学校の敷地を一部削って市役所が
建った。そこにあった神社は移され、池は\Aiubou{潰}{潰}された。
そのとき私は、\sujibou{時代が}{時代が変わった}と思った。
子どものものを削って、大人のものが作られたからである。
建てた側には、子どものものを削ったという意識はないと思う。
小学校は今でもあるからである。問題は暗黙の権利として子どもが
利用していたものが削られたことである。

その傾向はまさに\alphbou{滔々}{滔々として}日本中で進んだ。
子どもの遊び場がなくなるという主張が一時あったが、もはやない。
いまでは大人の権利が当然になった。土地みたいに値段が高いものを
、ただ遊ばせて、子どもに利用させるなんてとんでもない。
それが「常識」となった。少年法改正がうんぬんされるのも、
要は大人の範囲を拡張せよということであろう。
\sujibou{できる}{できることなら、日本人全部を大人にしたいのに
違いない}。

これはもちろん自然と人工のせめぎ合いである。自然とは人間が
作らなかったもの、人工とは人間が意識的に作り出したもの。
子どもはもちろん[\hskip1zw\rensuji{A}\hskip1zw ]である。
いまでは親は、子どもを作るか作らないかを選択できる。だから、
子どもを[\hskip1zw\rensuji{B}\hskip1zw ]と思わない人が多数派
になった。しかし、子どもすべてを「設計する」ことはできない。
それなら子どもは[\hskip1zw\rensuji{C}\hskip1zw ]で、
それを[\hskip1zw\rensuji{D}\hskip1zw ]の世界、約束事の
世界に適応させていくのが[\hskip1zw\rensuji{E}\hskip1zw ]である。

人間社会は自然の背景の上に成り立つ。日本の文化や伝統は日本の自然と
調和を保って生じてきた。田圃と里山、\Aiubou{ゾウキ}{ゾウキ}林
に代表される\sujibou{自然へ}{自然への「手入れ」の感覚は、同時に
子育ての感覚だった}。手入れとは、自然に「人手を入れる」ことである。
そこでは自然の自主性が尊重されるが、それだけではない。その自然を
手なずけ、できるだけ人間の意に添うように変更するという意味が
含まれている。しかもそうしたからといって、かならずしもうまくいく
というものでもなく、\sujibou{先行き}{先行きが明瞭に見えると
いうものでもない}。ところが組織のなかでは、先が見えないことなど、
\alphbou{一顧}{一顧だにされない}。それなら子育てに先が見えるか。
見えはすまい。しかしそれでも毎日子どもへの「手入れ」は続く。
それは母親がいちばんよく知っていることであろう。
それを風土という外部の自然への対応と一致させること、それはわれわれの
祖先が作り上げてきた利用増だった
それをひたすら壊したのは現代のわれわれ以外になり。それなら答は
明かではなかろうか。\sujibou{初心に}{初心に戻ればいいのである}。

\jsigned{(毎日新聞掲載 養老猛司の文章による)}

\bigskip

\begin{description}
% ====================== 問一 ==========================
\item[問一]傍線部\toiref{カソ}~\toiref{ゾウキ}のカタカナは
漢字に直し、漢字は読みをひらがなで記せ。

% ====================== 問二 ==========================
\item[問二]波線部\toiref{滔々}\toiref{一顧}のここでの意味として
ふさわしいものを、それぞれ次の中から選び、記号で答えなさい。

\begin{tabular}{lllll}
\toiref{滔々}「\kana{滔々}{とうとう}として」…………… &
ア & ゆっくりとではあるが着実に & イ & 一進一退をくり返しながら \\
& ウ & 流れに逆らうように & エ & とどまることを知らず \\

\toiref{一顧}「\kana{一顧}{いっこ}だにされない」…… &
ア & 考えて見ようともしない & イ & 尊敬されることがない \\
& ウ & 確かめてみることもない & エ & 批判さえされない \\
\end{tabular}

% ====================== 問三 ==========================
\item[問三]空欄部[\rensuji{A}]~[\rensuji{E}]に入る言葉の
組み合わせとして\最も記号

\begin{tabular}{llllll}
ア & [\rensuji{A}]人工 & [\rensuji{B}]自然 &
[\rensuji{C}]人工 & [\rensuji{D}]自然 & [\rensuji{E}]教育 \\

イ & [\rensuji{A}]自然 & [\rensuji{B}]自然 &
[\rensuji{C}]自然 & [\rensuji{D}]人工 & [\rensuji{E}]教育 \\

ウ & [\rensuji{A}]人工 & [\rensuji{B}]人工 &
[\rensuji{C}]自然 & [\rensuji{D}]教育 & [\rensuji{E}]自然 \\

エ & [\rensuji{A}]自然 & [\rensuji{B}]自然 &
[\rensuji{C}]人工 & [\rensuji{D}]教育 & [\rensuji{E}]自然 \\
\end{tabular}

% ====================== 問四 ==========================
\item[問四]傍線部\toiref{日本に}「日本に田舎はもはやない」とあるが、
筆者は「田舎」をどのようなところと定義しているのか。
\最も記号
\begin{enumerate}
\item  都会生活の中に自然が融合し、気軽に自然に親しむことができるところ。
\item  人々が日常生活を営む中で、自ずと自然への感性が養われていくところ。
\item  近代化の影響から取り残されて、手つかずの自然が放置してあるところ。
\item  年寄りには住みやすいが、子供達にとっては日常生活が不便なところ。
\end{enumerate}

% ====================== 問五 ==========================
\item[問五]傍線部\toiref{それ}の指示内容を二十字以内で説明せよ。ただし、
「都市化」「遊び場」の二語を必ず解答に含むこと。

% ====================== 問六 ==========================
\item[問六]傍線部\toiref{時代が}「時代が変わった」とあるが、その変化の
説明として\最も記号
\begin{enumerate}
\item  子供の権利に比較的寛容だった時代から、大人の権利のみを優先する
時代に変わった。
\item  子供が大人から権利を与えられる時代から、自ら権利を獲得していく
時代に変わった。
\item  今までにある自然を残そうとする時代から、人工的に自然を作り出す
時代に変わった。
\item  無駄なものの中にも価値を見いだした時代から、効率のみを重視する
時代に変わった。
\end{enumerate}

% ====================== 問七 ==========================
\item[問七]傍線部\toiref{できる}「できることなら、日本人全部を大人に
したいのに違いない。」とあるが、「大人」がこのように考えるのはなぜか。
その理由として\最も記号
\begin{enumerate}
\item  大人の常識によって日本人を均一化し、社会の安定とモラルの
向上を図るため。
\item  大人の常識を日本人全体の認識とすることによって、
真に豊かで平等な社会を実現するため。
\item  大人の権利を優先した発想を、社会の常識としてあらゆる場面で
適用できるようにするため。
\item  大人の考えと子供の考えとの差をなくすことによって、非行や犯罪を
未然に防ぐため。
\end{enumerate}

% ====================== 問八 ==========================
\item[問八]傍線部\toiref{自然へ}「自然への『手入れ』の感覚は、同時に
子育ての感覚だった。」とあるが、自然への手入れがどのような点で子育ての
感覚に似ているのか。このことを説明した部分を、解答欄の形式に合わせて
本文中から三十字以内で抜き出して答えよ。

% ====================== 問九 ==========================
\item[問九]傍線部\toiref{先行き}は自然について述べたものであるが、
子育てについてこれと同じ内容を述べた一文を傍線部より前の本文中から
探し、最初の五字を抜き出して答えよ。

% ====================== 問十 ==========================
\item[問十]傍線部\toiref{初心に}「初心に戻る」とはこの場合どういう
ことか。その説明として\最も記号
\begin{enumerate}
\item  現代に生きるわれわれが、祖先の残した自然を大切に守り、子ども
たちにも自然保護の精神を教え込んでいくこと。
\item  現代に生きるわれわれが、自然を手なずけようとして失敗したように、
子どもを意のままに育てることは不可能だと認識すること。
\item  現代に生きるわれわれが、自らが破壊した自然の代償として、
子どもの遊び場としての自然を新しく作り出していくこと。
\item  現代に生きるわれわれが、自然と調和した生活を取り戻そうと
する中で、子育ての感覚を身につけていくこと。
\end{enumerate}

\end{description}

%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%% 二 %%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%

\setcounter{Aiutoi}{0}   % カウンターのリセット
\setcounter{sujitoi}{0}
\setcounter{eijitoi}{0}

\noindent
\hskip-1.8zw{\LARGE\bf 二}
 次の文章を読んで後の問いに答えよ。

五年生になって二学期の最初の日、教師が一人の転入生を教室に連れてきた。
首に白い包帯をまき眼鏡をかけた小さな子だった。教壇の横で彼は女の子
のように眼を伏せて床の一点をみつめていた。\\
「みんな」黄ばんだスポーツ・パンツをはいたその若い教師は腰に手をあてて
大声で叫んだ。「東京から転校してきた友だちや。仲良うせな、あかんぜ」

それから彼は黒板に白墨で若林稔という名を書いた。\\
「アキラよ、この子の名、読めるか」

教室はすこし、ざわめいた。中にはぼくの方をそっと振りかえった者もいる。
その若林という子がぼくと同じように髪の毛を長く伸ばしていたからである。
ぼくといえば、多少、敵意とも嫉妬ともつかぬ感情で、その首に白い包帯を
まいた子供を眺めていた。鼻にずり落ちた眼鏡を指であげながら、彼はこちら
をチラッと盗み見ては眼を伏せた。\\
「みんな、夏休みの作文、書いてきたやろ」教師は言った。「若林君は
あの席に坐って聞きなさい。まず、戸田くん、読んでみろや」

転入生のことを教師が若林クンと読んだことが、ぼくの自尊心を傷つけた。
この組で君をつけて呼ばれるのは今日までぼくが一人だけの特権だった
からである。

命ずるままに、たち上って作文を読みはじめた。何時もなら、この時間は
ぼくにとって楽しいものなのだ。自分の書いたものを模範作文として
皆に朗読することは大いに虚栄心を充たしてくれたのだが、この日は
読みながら、心は落ち着かなかった。斜め横の椅子に腰をおろした
転入生の眼鏡が気になったのである。彼は東京の小学校から来ている。
髪を伸ばし、白い\Aiubou{襟}{襟}のでたシャレた洋服を着ている。
\sujibou{負けんぞ}{(負けんぞ)とぼくは心の中
で{\furikanaaki=2pt\kana{呟}{つぶや}}いた}。

作文の時、ぼくはいつも一、二ヵ所のサワリを作っておく。サワリとは師範出の
若い教師が悦びそうな場面である。別に意識して書いたのではないが、鈴木
三重吉の「赤い鳥」文集を生徒に読みきかせるこの青年教師から賞められる
ために、純真さ、少年らしい感情を感じさせる場面を織りこんで
おいたのだ。\\
「夏休みのある日、木村君が病気だと聞いたので、さっそく見舞いに行こうと
考えた」とその日もぼくは皆の前で朗読した。

これは本当だった。けれどもそれに続く後の部分で、例によってぼくは
ありもしない場面を作りあげていた。病気の木村君のため、苦心して
採集した蝶の標本箱を持っていこうとする。ネギ畠の中を歩きながら、
突然、それをやることが惜しくなる。幾度も家に戻ろうとするが、
やっぱり木村君の家まで来てしまう。そして彼の悦んだ顔をみて
ホッとする……。\\
「よおし」ぼくが読み終わった時、教師はいかにも満足したように
組中の子供を見まわした。\\
「戸田クンの作文のどこがええか、わかるか。わかった者は手を
あげよ」

二、三人の子供が自信なげに手をあげた。ぼくなは彼らの答えも、
教師の言いたいこともほぼ見当がついていた。木村マサルという
子に標本箱を持っていったのは本当である。だが、それは彼の
病気に同情したためではない。きりぎりすの鳴きたてる畠を歩いた
ことも事実である。だが、これをくれてやることが惜しいとは
思いもしなかった。なぜならぼくは三つほどそんな標本箱を父から
買い与えられていたからだ。木村が悦んだことは言うまでもない。
だが、あの時、ぼくが感じたのは彼の百姓家のきたなさと優越感
だけであった。\\
「アキラ。答えてみろや」\\
「戸田クンがマサルに標本箱……大切な標本箱、やりはったのが
偉いと思います」\\
「それは、まあ、そやけど、この作文のええ所は」教師は白墨を
とると---良心的---という三文字を書きつけた。「ネギ畠を
歩きながら標本箱やるのが惜しゅうなった気持ちをありのままに
書いているやろ。みなの作文には時々、ウソがある。しかし
戸田クンは本当の気持ちを正直に書いている。良心的だナ」

ぼくは黒板に教師が大書した良心的という三文字を眺めた。
どこかの教室でかすれたオルガンの音がきこえる。
女の子たちが唱歌を歌っている。別にウソをついたとも仲間や教師を
ダマしたとも思わなかった。今日まで学校でも家庭でもそうだった
のだし、そうすることによってぼくは優等生であり善い子だっったので
ある。

ななめ横をそっと振りむくと。あの髪の毛を伸ばした転入生が鼻に眼鏡を
少しずり落として黒板をじっと見詰めていた。ぼくの視線に気づいたのか、
彼は首にまいた白い包帯をねじるようにしてこちらに顔をむけた。
二人はそのまましばらくの間、たがいの顔を探るように\kana{窺}{うかが}
いあっていた。と、彼の顔がかすかに赤らみ、うすい笑いが唇にうかんだ。
(みんなはだまされてもネ、僕は知っているよ)その微笑はまるでそう言って
いるようだった。(ネギ畠を歩いたことも、標本箱が惜しくなったことも
皆、ウソだろ。うまくやってきたね。だが大人をだませても東京の子供
はだまされないよ)\\
\hspace*{1zw}\sujibou{視線}{ぼくは視線をそらし、耳まで赤い血がのぼる
のを感じた}。オルガンの音がやみ、女の子たちの声も聞こえなくなった。
黒板の字が震え動いているような気がした。

それから\sujibou{自信}{ぼくの自信}は少しずつ崩れはじめた。
教室でも校庭でもこの若林という子がそばにいる限り、何かうしろめたい
ものを感じるのである。勿論、そのために成績が落ちるということはなかった
が、教師から皆の前でホメられた時、図画や書き方が壁にはられた時、
組の自治会で仲間から委員にまつり上げられた時、ぼくは彼の眼をひそかに
盗み見てしまう。

この子の眼と書いたが、今、考えてみるとそれは決してぼくをとがめる
裁判官の眼でもなく罪を責める良心の眼でもなかった。同じ秘密、同じ
悪の種をもった二人の少年がたがいに相手の中に自分の姿をさぐりあった
だけにすぎぬ。ぼくがあの時、
感じたのは心の\Aiubou{呵責}{呵責}ではなく、自分の秘密を
握られたという屈辱感だったのだ。

\bigskip

(中略・この後、若林は誰とも打ち解けないまま転校してしまう。)

\bigskip

夏休みがきた。ある暑い昼さがり、ぼくは学校にちかいネギ畠を一人で
歩いていた。草の間できりぎりすが息ぐるしい音をたて、むこうの乾いた
路をアイス・キャンデーを売る男が自転車を\kana{軋}{きし}ませながら
\kana{曳}{ひ}きずっていった。

その時、突然、ぼくの心に昨年のおなじ夏休みに書いた作文のことが
\Aiubou{甦って}{甦って}きた。木村という子に蝶の標本箱を
持って見舞ったことを書いた作文である。あれは皆の前で朗読するために
書いたものである。「赤い鳥」文集からおぼえたサワリで教師を悦ばす
ために書いたものである。その秘密を知っているのは、あの若林という
子だけだった。

ぼくは家に走って帰った。部屋の中で自分が一番大切にしている万年筆を
探した。父がドイツにいた頃、買ってきてぼくにくれたものである。
ポケットにそれを入れるとぼくは木村の家にまた、走って行った。\\
「これ、お前にやらあ」\\
「なんでや」牛小屋の前にたっていた木村は汗まみれのぼくの顔と万年筆
とを\Aiubou{狡そうに}{狡そうに}見くらべながら、少しあとずさりを
した。\\
「なんでもええんや」\\
「ふん。そんなら、もらっとくわ」\\
「ええか。誰にも言うたらアカンぜ。ぼくがやったと家のものにも、
先生にも言うたらアカンぜ。アカンぜ」

帰り路、あのネギ畠を戻りながら、ぼくはこの一年の間、自分の屈辱感
を与えていたもの、あの子の嘲笑から抜けでられると思った。にも
\kana{拘}{かかわ}らず草の中できりぎりすが暑くるしい声をあげ、
アイス・キャンデーを売る男がたちどまって道ばたで小便をしていた。
\sujibou{白々}{ぼくの心は白々とむなしかった}。善いこと
をしたと言う良心の悦びや満足感は一滴も湧いてこなかった……。

\jsigned{(「海と毒薬」遠藤周作)}

\bigskip

\begin{description}
% ====================== 問一 ==========================
\item[問一]傍線部\toiref{襟}~\toiref{狡そうに}の読みを
それぞれ答えよ。

% ====================== 問二 ==========================
\item[問二]傍線部\toiref{負けんぞ}「(負けんぞ)とぼくは心の中で
呟いた」のはどうしてか。
その説明として\最も記号
\begin{enumerate}
\item  東京から来た転校生を、学級内における自分の地位を脅かす存在として
意識したから。
\item  転校生の澄ました態度の中に、優等生の詩文に対する鋭い反感を感じ
取ったから。
\item  しゃれた格好の転校生が、自分を田舎者として見下すのではないかと
危惧したから。
\item  利口そうな転校生のために自信を喪失してしまった自分を奮い立たせた
かったから。
\end{enumerate}

% ====================== 問三 ==========================
\item[問三]傍線部\toiref{視線}「ぼくは視線をそらし、耳まで赤い血が
のぼるのを感じた」とあるが、「ぼく」の中のどういう気持ちがこのような
反応を引き起こしたのか。具体的に説明している部分を本文中より十五字
程度で抜き出して答えよ。

% ====================== 問四 ==========================
\item[問四]傍線部\toiref{自信}「ぼくの自信」とあるが、それはどのような
自信であったか。その説明として最も適切なものを次の中から選び、記号で
答えよ。
\begin{enumerate}
\item  教師との強い信頼関係を持つ自分は、どの生徒もかなわない特別な存在
なのだという自信。
\item  このまま勉学への努力を重ねるなら、いずれは教師の愛情を独占できると
いう自信。
\item  誰も口には出さないが、自分はこの学級で教師を越える絶対的な存在なのだと
いう自信。
\item  教師が望む理想の生徒像を演じることで、優等生として認められてきた
という自信。
\end{enumerate}

% ====================== 問五 ==========================
\item[問五]傍線部\toiref{白々}「ぼくの心は白々とむなしかった」のは
どうしてか。その説明として\最も記号
\begin{enumerate}
\item  「ぼく」のせっかくの万年筆を木村があまり喜ばなかったことで、
作文に書いたような感動的な世界は、現実には存在しないのだと失望したから。
\item  「ぼく」は一番大切な万年筆を木村に与えたが、それは若林に味わわされた
屈辱感を埋め合わせるための偽善的行為にすぎないと感じたから。
\item  「ぼく」は、大切な万年筆を与えるほどの自分の善良さを発見して若林
を見返したような気がしたが、その若林はもはやおらず、徒労感に駆られたから。
\item  「ぼく」にとって木村という少年は万年筆を与えるほどの友人ではなく、
一時の衝動で取り返しのつかないことをしてしまったことに気づいたから。
\end{enumerate}

% ====================== 問六 ==========================
\item[問六]本文を読んで、座談会が行われた。次の発言の中から本文の趣旨に
合うものを選び、記号で答えよ。
\begin{enumerate}
\item  「ぼく」はいつも優等生でいたかったために若林君と仲良くなれなかった
んだね。若林君はせっかく「ぼく」に好意をよせていたのにかわいそうだな。
\item  そうかしら。誰でも触れられたくないことはあるんだから、若林君は
「ぼく」の心の秘密を知ったとき、知らぬ振りをすべきだったと思うわ。
ここではどうしたら他人の嘘を許せるかという問題が提示されているのね。
\item  ぼくの意見は二人とは少し違うな。人は遅かれ早かれ二面性を持ち始める
ものだ。「ぼく」は自分とよく似た若林の存在によって自分の二面性に
気づかされたんだと思う。少年が成長していく一つの過程を描いた場面なんだね。
\item  みんなの意見を聞いてぼくもだんだんわかってきたよ。人間には自分の
知らない内に人をだましてしまうことが必ずある。特に幼い頃はなおさらだし、
それに早く気づけば本当に良心的な大人になれることを教えてくれているんだね。
\end{enumerate}

\end{description}


%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%% 三 %%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%

\setcounter{Aiutoi}{0}   % カウンターのリセット
\setcounter{sujitoi}{0}
\setcounter{eijitoi}{0}

\noindent
\hskip-1.8zw{\LARGE\bf 三}
 次の文章を読んで後の問いに答えよ。

中ごろ、年たかき尼の、さすがに人に知られ\kana{て}{*\rensuji{1}}
\kana{乞食}{こつじき}しありくあり。
%
% ここは実際の問題では「波線」なっているが,波線の出し方を私は知らない。
%
\sayubosen{我が身のありさま、みづから語りけるは}、
「もとは四条の宮の\kana{半者}{*\rensuji{2}}、
みなそことなむ云ひける。男の受領になりて下りける時、具して
下らんといざなひければ、宮にも暇申し、さぶらふ人々にも其の由聞こえて、
心ばかり出で立つ。\kana{お}{*\rensuji{3}}ほやけにも旅の
装束\alphbou{給はす}{給はす}。
女房なんども、おのおの扇・畳紙やうのはなむけあまねくこころざしけり。
既に暁とて、重ねて事の由聞こえて、里に出でつつ迎への車を待つほどに、
其の日音信もなし。\sujibou{あやし}{あやしくて}、もし下り
延びたるかと尋ぬれば、
『はや、此の暁下り\alphbou{給ひ}{給ひ}ぬ。\kana{北}{*\rensuji{4}}の方
日ごろはそら知らずして、此の夜中
ばかり、「\kana{た}{*\rensuji{5}}だあらましかとこそ思ひつれ、
まことには、\sujibou{我をお}{我をおきて、
誰を具して行くべきぞ」とむつかり給ひつれば}、やがて、北の方もろとも
に下り給ひぬ。』と云ふ。
\sujibou{悪心お}{悪心おこるなどはおろかなり}。人のまづ思はん
事も心うければ、
\sujibou{其の後}{其の後、宮へもまゐらず}、やがて其の日よりきよまはり
して、\kana{貴船}{*\rensuji{6}}へ\kana{百}{*\rensuji{7}}夜まゐりして、
申し侍りしやう、『我、おだやかにて、
人を悪しかれと申さばこそは、かたからめ。
\sujibou{彼の人}{彼の人}を失ひ給へ。
我を命を奉らん。もし、なほ生けらば、乞食する身となりて、後世には
無間地獄におつる果報を受くるとも、それをば憂へとせず。ただこの
いきどほりを助け給へ』となむ二心なく\alphbou{申し}{申し}侍りし。
\sujibou{この男}{この男は、ただ
面目なくなんどばかり心苦しく思ひやりて、さほど深く思ふらんとは
知らざりけり}。国に下りつきて、一月ばかりありける程に、かの北の方、
湯殿におりたりける時、湯のけの中へ、
天井の中\kana{より}{*\rensuji{8}}\kana{襪}{したうづ}はきたる足の
一尺ばかりなるをさしおろしたるが見えければ、女房に『かれは見る』
と問ひけれど、\alphbou{こと人}{こと人}には見えず。かくて、
驚き恐れて湯もあみず、
さわぎのぼりにけるより、やがて重く煩ひて、程なく失せにけりとぞ。

京にはいまだ百日にみたざりし程に聞きて、心の内の悦び、申しつく
すべからず。其の後、とかく事たがひて、世にあるべくもなく衰へて、
はてにはかく乞食をしありき侍るなり。ともすれば、罪ふかく恐ろしき
夢なんど見え侍れど、
\sujibou{さしも}{さしも申してし事なれば、さらに恨むるに
あらずなむ侍る}。いたく老いせまりて後こそ、なにしに罪ふかくさる
悪心を発して、\kana{二}{*\rensuji{9}}世不得の身になりぬらむと
思ひかへし侍れど、
かひもなし」とぞ云ひける。

\jsigned{(『発心集』より)}

\bigskip

*\rensuji{1}「乞食」…物ごい。
*\rensuji{2}「半者」…(四条の宮に)仕える者。
*\rensuji{3}「おほやけ」…帝。
*\rensuji{4}「北の方」…正妻。

*\rensuji{5}「ただあらましかとこそ思ひつれ」…赴任する
ことはないとばかり思っていましたのに。
*\rensuji{6}「貴船」…貴船神社。

*\rensuji{7}「百夜まゐり」…願いを叶えるために百日間
毎晩、お参りすること。

*\rensuji{8}「襪」…沓をはく時、その下に用いる布製のはきもの。

*\rensuji{9}「二世不得の身」…現世、来世とも悟りを得ない身。

\bigskip

\begin{description}
% ====================== 問一 ==========================
\item[問一]傍線部\toiref{給はす}「給はす」、
\toiref{こと人}「こと人」の単語の意味をそれぞれ答えよ。

% ====================== 問二 ==========================
\item[問二]傍線部\toiref{給ひ}「給ひ」、
\toiref{申し}「申し」は誰に対する敬意を表すか。
それぞれ次の中から選び、記号で答えよ。\\
ア \hskip0.5zw 尼 \hskip2zw
イ \hskip0.5zw 宮 \hskip2zw
ウ \hskip0.5zw おほやけ \hskip2zw
エ \hskip0.5zw 男 \hskip2zw
オ \hskip0.5zw 女房 \hskip2zw
カ \hskip0.5zw 神

% ====================== 問三 ==========================
\item[問三]傍線部\toiref{あやし}「あやしくて」の理由を説明したものとして
\最も記号

\begin{enumerate}
\item  男の有難い誘いを信じて待っていたのに、約束の当日になっても
何の連絡もないから。
\item  男について行く準備を万端整えていたのに、男が急に心変わり
したことが分かったから。
\item  誘ってきたのは男なのに、宮仕えをやめた途端、男が将来を
悲観して通わなくなったから。
\item  受領になって地方へ下るという命令が。出発の日の朝になって
取り消されてしまったから。
\end{enumerate}

% ====================== 問四 ==========================
\item[問四]傍線部\toiref{我をお}「『~我をおきて、誰を具して
行くべきぞ』とむつかり給ひつれば」の説明として最も適当なものを
次の中から選び、記号で答えよ。
\begin{enumerate}
\item  北の方は男が自分の他に女がいるということに気付かずにいたが、
自分を置いて地方へ下るという話には、さすがに浮気しているのではないかと
不安を感じている。
\item  いつも自分の思うがままの行動をとる北の方は、ここでも地方へ下る
ことを拒めなかった頼りない夫を指図し、任地へ共に行くのは自分しかいないと
自負している。
\item  北の方は一緒に住んでいるのは自分だという自負から夫の浮気に
気付かぬふりをしてきたが、自分以外の女を連れて地方へ下るのは許せない
と不満を訴えている。
\item  夫は一人で任地へ下ろうとしているのに、北の方は夫が誰かと
一緒ではないかと疑いをかけ、その疑念を晴らすために自分を連れていく
ように強く迫っている。
\end{enumerate}

% ====================== 問五 ==========================
\item[問五]傍線部\toiref{悪心お}「悪心おこるなどはおろかなり」の解釈と
して最も適当なものを次の中から選び、記号で答えよ。
\begin{enumerate}
\item  北の方が夫を憎むのは何とおろかなことであろう。
\item  北の方が嫉妬したことは言うまでもない。
\item  それを聞いた私は憎むどころではなかった。
\item  私は恨む気持ちを起こすほどおろかではなかった。
\end{enumerate}

% ====================== 問六 ==========================
\item[問六]傍線部\toiref{其の後}「其の後、宮へも参らず」の
理由を説明したものとして\最も記号
\begin{enumerate}
\item  再び宮中でお仕えする気力もないほど、男に約束を破られた傷は非常に
深く、その傷を癒すために世間との交わりを断って宗教的世界で生きていく決心を
したから。
\item  宮中の人々には自分が地方に下ることを告げ、あたたかい心遣いまで
してもらっているため、いまさら宮中に戻ったところで自分のみじめさがつのる
だけだから。
\item  帝や宮をはじめ、周囲の人々の反対を押し切って男と下ったのに、
北の方の介入によって男との仲がうまくいかなくなり、宮中では合わせる顔が
なかったから。
\item  男と連れ添いたいという自分の願いを成就するためには、
その代償として宮仕えという安定した身分を断念し、乞食になっても
よいという覚悟を決めたから。
\end{enumerate}

% ====================== 問七 ==========================
\item[問七]傍線部\toiref{彼の人}「彼の人」とあるが、誰を指すか。
本文中より抜き出して答えよ。

% ====================== 問八 ==========================
\item[問八]傍線部\toiref{この男}「この男は~知らざりけり」と
あるが、この部分の説明として\最も記号
\begin{enumerate}
\item  男は世間体を気にしているため、女の深い愛情をかえって
重荷に感じ、自然と女のことを忘れようと努めた。
\item  男が北の方への配慮と女への強い愛情との板挟みにあって
切なく思っていることに、女は気付いていない。
\item  男は長年連れ添った北の方の愛情を確認して、北の方を
連れて行ったが、女はその心変わりを知らなかった。
\item  男はこの愛にかける女の異常なまでの執念を知らず、
ただ約束を果たせなかったことを申し訳なく思っている。
\end{enumerate}

% ====================== 問九 ==========================
\item[問九]傍線部\toiref{さしも}「さしも申してし~あらざなむ
侍る」について、次の問いに答えよ。
\begin{enumerate}
\item[\rensuji{(1)}]  「さしも申してし」の「さ」の指示内容として
最も適当な一文を探し、その最初の三字を抜き出して答えよ。
\item[\rensuji{(2)}]  「さらに恨むにあらずなむ侍る」を口語訳せよ。
\end{enumerate}

% ====================== 問十 ==========================
\item[問十]波線部「我が身のありさま、みづから語りけるは」について、
女は現在の「我が身のありさま」について結局どのように思っているのか。
その説明として\最も記号
\begin{enumerate}
\item  現在乞食となった我が身も嫉妬心の虜となって非道な行為に走った
報いであるため、後悔しながらも受け入れざるを得ないと思っている。
\item  相手に裏切られた恨みの深さゆえに罪深いことをしてしまい、
その報いがはからずも自分に及んでしまったことで強い自責の念に
かられている。
\item  激しい憎しみの心から人を呪い殺してしまい、そのため乞食に
なったが、反面かねてからの願いが成就したため、良心の痛みもなく
満足している。
\item  男への深い愛情があだとなって、生き恥をさらすことになった
今でも、それは自分の運命として覚悟していたことであったため、
何ら後悔していない。
\end{enumerate}

\end{description}

%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%% 四 %%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%

\setcounter{Aiutoi}{0}   % カウンターのリセット
\setcounter{sujitoi}{0}
\setcounter{eijitoi}{0}

\noindent
\hskip-1.8zw{\LARGE\bf 四}
 次の文章を読んで、後の問いに答えよ。ただし、設問の都合上
訓点を省略した箇所がある。

\begin{kanshi}
%「漢詩」環境の中で文字送りを広げる
\kanjiskip=1.2zw
\LARGE\noindent
\bousensep=0.75zw
前\kundoku{漢}{}{ノ}{}丙吉\hskip\kanjiskip
\alphbou{字}{\kundoku{字}{}{ハ}{}}少
\kundoku{卿}{}{}{}(、)\hskip.33\kanjiskip
魯\kundoku{国}{}{ノ}{}\kundoku{人}{}{ナリ}{}(。)\hskip.3\kanjiskip
宣\kundoku{帝}{}{ノ}{}時\kundoku{為}{}{ル}{二}
\kundoku{丞}{*}{}{}\kundoku{相}{}{ト}{一}(。)\hskip.3\kanjiskip
\kundoku{嘗}{}{テ}{}\kundoku{出}{}{デテ}{}\kundoku{逢}{}{フ}{二}
群\kundoku{闘}{}{スル}{}\kundoku{者}{}{ノ}{}死\kundoku{傷}{}{シ}{}
\kundoku{横}{}{タハルニ}{\ichireten}
\kundoku{道}{}{ニ}{}(。)\hskip.3\kanjiskip
\sujibou{吉過之}{吉\kundoku{過}{}{ギテ}{レ}\kundoku{之}{}%
{ヲ}{}\kundoku{不}{}{}{レ}%
\kundoku{問}{}{ハ}{}(。)}\hskip.3\kanjiskip
吉\hskip\kanjiskip
\alphbou{前}{\kundoku{前}{}{ミ}{}}
\kundoku{行}{}{キテ}{}(、)\hskip.33\kanjiskip
\kundoku{逢}{}{フ}{二}\kundoku{人}{}{ノ}{}
\kundoku{逐}{}{フニ}{\ichireten}
\kundoku{牛}{}{ヲ}{}(。)\hskip.3\kanjiskip
\sujibou{牛喘吐}{牛\kundoku{喘}{ あえ}{イデ}{}
\kundoku{吐}{}{ク}{レ}
\kundoku{舌}{}{ヲ}{}(。)\hskip.3\kanjiskip
吉止\kundoku{駐}{}{シテ}{}(、)\hskip.33\kanjiskip
使騎吏\kundoku{問}{}{}{}(。)}\hskip.3\kanjiskip
\makebox[1zw]{「}\hskip\kanjiskip\kundoku{逐}{}{ヒテ}{レ}
\kundoku{牛}{}{ヲ}{}\kundoku{行}{}{クコト}{}幾
\kundoku{里}{}{ゾト}{}(。)\hskip.3\kanjiskip
\makebox[1zw]{」}\hskip\kanjiskip
\sujibou{掾史独}{\kundoku{掾}{*えん}{}{}\kundoku{史}{ し}{}{}
\kundoku{独}{}{シ}{}
\kundoku{謂}{ いへ}{ラク}{}(、)\hskip.33\kanjiskip
\makebox[1zw]{「}\hskip\kanjiskip
丞\kundoku{相}{}{ハ}{}
前後\kundoku{失}{}{フト}{レ}\kundoku{問}{}{ヒヲ}{}(。)}
\makebox[1zw]{」}\hskip.8\kanjiskip
\kundoku{或}{}{ヒハ}{}\kundoku{以}{}{テ}{}
\kundoku{譏}{ そし}{ル}{レ}
\kundoku{吉}{}{ヲ}{}(。)\hskip.3\kanjiskip
吉\kundoku{曰}{}{ク}{}(、)\hskip.3\kanjiskip
\makebox[1zw]{「}\hskip\kanjiskip
民\kundoku{闘}{}{ヒテ}{}相殺
\kundoku{傷}{}{スルハ}{}(、)\hskip.3\kanjiskip
\kundoku{長}{*}{}{}\kundoku{安}{}{ノ}{}
令\makebox[.4zw]{・}\hskip.4\kanjiskip
\kundoku{京}{*}{}{}\kundoku{兆}{}{ノ}{}尹
\kundoku{職}{}{トシテ}{}
\kundoku{所}{}{ナリ}{レ}\kundoku{当}{}{ニ}{二}<キ>禁備逐
\kundoku{捕}{}{ス}{一}(。)\hskip.3\kanjiskip
\kundoku{歳}{}{ノ}{}\kundoku{竟}{ をは}{リニ}{}
丞相\kundoku{其}{}{ノ}{}\kundoku{課}{*くわ}{シ}{二}殿
\kundoku{最}{}{ヲ}{一}(、)\hskip.3\kanjiskip
\kundoku{奏}{}{シテ}{}\kundoku{行}{}{フ}{二}賞
\kundoku{罰}{}{ヲ}{一}\hskip\kanjiskip
\alphbou{而已}{而\kundoku{已}{}{}{}(。)}\hskip.3\kanjiskip
\sujibou{宰相不}{宰}\\
\sayubosen{\kundoku{相}{}{ハ}{}\kundoku{不}{}{}{レ}
\kundoku{親}{みづか}{ラセ}{二}
小\kundoku{事}{}{ヲ}{一}(、)\hskip.3\kanjiskip
\kundoku{非}{}{}{レ}\kundoku{所}{}{}{レ}\kundoku{当}{}{}{下}
\kundoku{於}{}{}{二}道\kundoku{路}{}{}{一}
\kundoku{問}{}{}{上}(。)}\hskip.3\kanjiskip
\kundoku{方}{あた}{リ}{レ}\kundoku{春}{}{ニ}{}\kundoku{少}{*}{}{}
陽\kundoku{用}{}{ヒ}{レ}\kundoku{事}{}{ヲ}{}(、)\hskip.3\kanjiskip
\kundoku{未}{}{ダ}{レ}\kundoku{可}{}{カラ}{二}
\kundoku{太}{はなは}{ダ}{}
\kundoku{熱}{}{カル}{一}(。)\hskip.3\kanjiskip
\kundoku{而}{しか}{ルニ}{}牛\kundoku{近}{}{ク}{}
\kundoku{行}{}{ケドモ}{}(、)\hskip.3\kanjiskip
\kundoku{以}{}{テノ}{レ}\kundoku{暑}{}{ヲ}{}\kundoku{故}{}{ニ}{}
\kundoku{喘}{}{グ}{}(。)\hskip.3\kanjiskip
\kundoku{此}{}{レ}{}\kundoku{時}{*}{}{}気\kundoku{失}{}{ス}{レ}
\kundoku{節}{}{ヲ}{}(、)\hskip.3\kanjiskip
\kundoku{恐}{}{ラクハ}{}\kundoku{有}{}{ラン}{レ}\kundoku{所}{}{}{レ}
\kundoku{害}{}{スル}{}(。)\hskip.3\kanjiskip
\kundoku{三}{*}{}{}\kundoku{公}{}{ハ}{}\kundoku{典}{つかさど}{ル}{三}
\kundoku{調}{}{}{二}
\hskip.3\kanjiskip\makebox[.4zw][c]{--}\hskip.2\kanjiskip
\kundoku{和}{}{スルヲ}{}
\kundoku{陰}{*}{}{}\kundoku{陽}{}{ヲ}{一}(。)\hskip.3\kanjiskip
\kundoku{職}{}{トシテ}{}\kundoku{当}{}{ニ}{レ}<シ>
\kundoku{憂}{}{フ}{}(。)\hskip.3\kanjiskip
\kundoku{是}{}{ヲ}{}\kundoku{以}{}{テ}{}\kundoku{問}{}{フト}{レ}
\kundoku{之}{}{ヲ}{}(。)\hskip.3\kanjiskip
\makebox[1zw]{」}\hskip\kanjiskip
\sujibou{掾史乃}{掾史\kundoku{乃}{}{チ}{}\kundoku{服}{}{シテ}{}
\kundoku{以}{ お  も}{}{}
\kundoku{為}{ へ}{ラク}{}吉\kundoku{知}{}{ルト}{二}大
\kundoku{体}{}{ヲ}{一}(。)}
\end{kanshi}

\mbox{}\hfill{\large(『蒙求』より)}

\bigskip

\begin{tabular}{ll}
〈注〉 & *丞相・・・天子を助けて国を治める最高官吏。後にある「三公」
の一つ。「宰相」と同じ。\\
& *掾史・・・下役人\hskip2zw *長安令・・・長安の長官
\hskip2zw *京兆尹・・・京兆の長官\\
& *課殿最・・・「最」は成績の上、「殿」は下の意で、
成績の優劣を調べはかること。\\
& *少陽用事・・・本来なら暖かくなった程度の季節であると
いうこと。\hskip2zw *時気・・・気候\\
& *三公・・・天子を助けて国を治める三人の
最高官 \hskip2zw *陰陽・・・宇宙の万物のもととなる二種類の気\\
\end{tabular}

\begin{description}
% ====================== 問一 ==========================
\item[問一]傍線部\toiref{字}「字」、\toiref{前}「前」、
\toiref{而已}「而已」の読みをそれぞれ答えよ。

% ====================== 問二 ==========================
\item[問二]傍線部\toiref{吉過之}「吉過之不問」とあるが、
「吉」が「之」を特に気に留めなかったのはなぜか。
その理由の説明として\最も記号
\begin{enumerate}
\item  役人にはそれぞれ担当すべき職分があり、町の殺傷事件は丞相
である自分が扱うべき次元のものではないと考えたから。
\item  街の治安の悪化には丞相として責任を感じており、眼前の一つ
の事件よりもその全体的な解決策の方に関心があったから。
\item  路上での出来事にいちいち関わっている暇はなく、部下に指図
し監督するのが丞相である自分の立場だと考えているから。
\item  暑中に路上では牛も人も混み合い苛立っており、丞相である自分
も一刻も早くこの混雑を抜け出したいと思っているから。
\end{enumerate}

% ====================== 問三 ==========================
\item[問三]傍線部\toiref{牛喘吐}「牛喘吐舌。吉止駐、使貴吏問」
について、次の各問いに答えよ。
\begin{enumerate}
\item[\rensuji{(1)}] 「使貴吏問」を書き下し文に改めよ。
\item[\rensuji{(2)}] 「吉」のこの行動は、「牛」の様子からどのようなことを心配
したためか。その説明として最も適当な一文を探し、その最初の三字を
抜き出して答えよ。
\end{enumerate}

% ====================== 問四 ==========================
\item[問四]傍線部\toiref{掾史独}「掾史独~前後失問」とあるが、
「掾史」が「丞相前後失問」と言った理由の説明として\最も記号
\begin{enumerate}
\item  丞相である吉が人間の死傷事件については不問のまま通り過ぎたのは、
尋ねる機会を逸したためだろうと掾史は思ったから。
\item  人間の事件はともかく、人にむち打たれて苦しそうな牛の様子に同情する
吉の憐れみを、掾史は度が過ぎていると思ったから。
\item  重職を担う吉が人間の生命に関わる事件を問わず、牛については尋ねた
ため、事の軽重を間違っていると掾史は思ったから。
\item  人間であれ牛であれ路上で見た事件ぐらいに吉が足を止めるのは、
丞相の責務から逸脱した行為だと、掾史は思ったから。
\end{enumerate}

% ====================== 問五 ==========================
\item[問五]傍線部\toiref{宰相不}「宰相不親小事、非所当於道路問」について、
次の各問いに答えよ。
\begin{enumerate}
\item[\rensuji{(1)}] 「小事」とは、ここでは具体的にどういうことを
指しているのか。「吉」の言葉の中から五文字以内で抜き出して答えよ。。
\item[\rensuji{(2)}] 「非所当於道路問」を返り点に従って
\sayubosen{全部ひらがな}で
書き下し文に改めよ。
\end{enumerate}

% ====================== 問六 ==========================
\item[問六]傍線部\toiref{掾史乃}「掾史乃服以為吉知大体」について、
次の各問いに答えよ。
\begin{enumerate}
\item[(\rensuji{1})] 「服」とは対照的な行為を、本文前半から一字
で抜き出して答えよ。
\item[(\rensuji{2})] 「掾史」が「服」したのはなぜか。その理由の
説明として\最も記号

\begin{enumerate}
\item[ア]  吉が平凡な者には理解できないような神秘的な能力を備えていたため、
丞相を務める者だけのことはあると掾史は吉を見直したから。
\item[イ]  吉が牛の様子から天候の異変にいち早く気づいたため、その明敏さに
敬服するとともに、自分の浅はかさを掾史は思い知ったから。
\item[ウ]  吉が路上で遭遇した二つの事件の因果関係を直感し、ほぼその真相を
突き止めていたため、その偉大な見識に掾史は恐れ入ったから。
\item[エ]  吉が丞相である地位にふさわしく、全体を考える視野の広さと本質を
見抜く鋭さを持っていることに掾史は感動したから。
\end{enumerate}
\end{enumerate}

\end{description}

\end{document}
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